研究概要 |
本研究の目的は、1)脳磁図、fPET、fMRIによる言語機能マッピング法の測定精度の向上を図るとともに、2)Broca野近傍の脳腫瘍症例について運動性言語野の局在、機能障害の程度を測定し、3)それら臨床例のマッピングデータを手術ナビゲーションシステムに取り込み、モニター画面上に機能局在を3次元画像表示する方法の確立し、最適な治療計画と治療成績の質的向上を図ることである。 脳磁図による言語野マッピングでは、Neuromag社の電流源解析ソフト:Minimum Current Estimation(MCE)を用い、言語視覚提示および言語聴覚提示を行った。健常者を対象とした脳磁図による言語野の検討では、視覚言語提示タスクにおいては、脳磁図による誘発脳磁界の計測結果はfMRIの測定結果とほぼ一致していた。視覚言語提示法に比し、聴覚言語提示法による誘発脳磁界計測は困難なものであるが、提示する語音節長を一定にしたタスクを作成するなど聴覚言語提示プログラムの改良により、安定した計測結果が得られるようになった。 言語野近傍の脳腫瘍症例11例を対象として、術前にf-PET、f-MRI、脳磁図による非侵襲的言語機能局在マッピングを行った。11例中10例が右利きであり、これら10例では左前頭葉Broca野近傍に腫瘍が局在しており、10例全例において、左下前頭回ないし中前頭回にBroca野と推定される賦活領域が認められた。左利きの1例は術前から言語障害の程度が強く、言語賦活領域の同定は困難であった。これら言語マッピングデータを手術ナビゲーションシステムに取り込み、モニター画面上に機能局在を3次元画像表示しながら、脳腫瘍の摘出術を行った。全例でBroca野を温存しながら腫瘍が全摘され、術後にも言語障害は現れなかった。 本研究により、脳神経外科手術ナビゲーションシステムに脳解剖、脳機能、脳代謝に関するマルチモダル情報を導入し、言語機能の局在や安全な摘出ルートの設定をモニター画面上に3次元表示することが可能になり、治療成績の質的向上が得られた。今後、手術ナビゲーションシシステムの欠点である術中の脳偏位や変形の問題への対策として超音波エコーによるリアルタイム補正を検討しており、さらに脳機能情報として拡散テンソル画像(diffusion tensor image, DTI)の導入などを加えて、より精度の高い手術ナビゲーショシシステムの確立を目指したい。
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