研究概要 |
グリオーマなどの悪性新生物に対する治療戦略とて、免疫療法は有力な選択肢であり、これまでに多くの研究がなされてきた。我々は、免疫学的寛容の場である中枢神経系でも、皮下組織などを利用した獲得免疫の誘導と、脳腫瘍内でのサイトカイン発現によるリンパ球動員・再活性化により、この戦略が有効であることを示してきた。その治療効率のさらなる改善のためには、実際に標的となる抗原の量に着目する必要がある。すなわち、グリオーマで大量に発現していて、正常脳では低発現であるタンパクを同定し、それをペプチドの形でワクチンとして利用することにより、効率的な抗腫瘍獲得免疫が誘導できる可能性がある。ます、グリオーマ臨床検体をプロ手テオミクスの手法で多数解析し、悪性グリオーマで高発現している26個のタンパク質を同定した。その中の5個を占めた低分子量Gタンパク質(nucleolar GTP-binding protein, Rab3A, Ra1A, RhoA, Rac1)に関し、その妥当性を検討する目的で、real time RT-PCRによるmRNAレベルでの発現解析を行った。その結果、Ra1A, RhoA, Rac1においては、悪性度の高いグリオーマで有意に発現量が多いことが確認され、また免疫組織学的検索でも多量のタンパク質の存在を確認した。現在、これら3つのタンパクから、MHC class-I, class-IIと親和性の高いペプチドの同定作業を行っている。一方、これらペプチドワクチンで誘導された細胞障害性T細胞を効率良く脳腫瘍内に動員・再活性化を図るための戦略として、センダイウイルスベクターによるinterleukin-2(IL-2)遺伝子の脳腫瘍内導入による治療効果の検討も行った。センダイウイルスベクターは、遺伝子導入効率・遺伝子発現量いずれも高く、また細胞質でのみ転写・複製を行うため臨床応用において安全性が高いのが特徴である。結果は、投与量が10^7CIUという比較的少ない量で、3/10の担脳腫瘍実験動物の治癒を得ることができた。これは、脳腫瘍細胞量の10倍にあたるIL-2産生細胞の投与と同等の成績であり、本ストラテジーの臨床応用が一歩近づいたと考えられる。同時に、実験脳腫瘍内におけるCD-4、CD-8 T cellの大量の存在、脳腫瘍特異的細胞障害性T cellの誘導も確認した。
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