最近確立した脳幹内において定位脳的に選択的に顔面神経路(脳幹内根)を切断するモデルの検討により、同じ顔面神経軸索損傷であっても脳幹から末梢までの間の損傷の部位により、顔面神経核の神経細胞の生存率には大きな隔たりがあることがわかった。すなわち、頭蓋骨外の末梢部分での軸索損傷では軸索再生を伴わなくとも顔面神経細胞は依然9割以上が生存しているにもかかわらず、脳幹内損傷では顔面神経核に逆行性変性が急速に進行し、損傷後1週で30%、1ヶ月でわずか2%に満たない顔面神経細胞が生存するにすぎない。この早期からの神経脱落の差異は中枢性軸索と末梢性軸索の再生能力の差のみで説明しうるものではなく、損傷部位特異性を持ったグリア、ターゲットからのシグナルを含む複数の因子の関与が想定される。脳幹内損傷部位に自家末梢神経を移植、造血因子であるエリスロポイエチン、筋肉組織等の移植操作を加えることで、それぞれの操作により、この逆行性神経細胞脱落現象を異なった程度に抑制できることを見出した。脳幹内損傷操作単独後1ヶ月では約2%の顔面神経細胞生存率であるのに対し、自家末梢神経移植では、20%、エリスロポイエチン腹腔内投与で8%、自家筋肉組織移植で7%であった。ただし筋肉組織移植操作は、損傷後2週間の生存率は3群中で最高値を示した。現在、移植組織自体の組織学的変化、移植組織内の軸索再生の有無、ドン食細胞の浸潤の有無、周囲組織との反応の評価を加えるとともに、電顕観察、アポトーシス関連因子の発現を検討中である。
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