研究概要 |
中枢神経の再生をめざして、neurotrophins、neural cytokine、接着因子などのいわゆる神経成長栄養因子が、また一方で多彩な潜在能力を持つさまざまな幹細胞の治療への応用の可能性が報告されている。しかしながら、損傷されたmotoneuronの機能回復に関しては、いまだ治療へのbreakthroughが得られていない。我々は、定位脳的手技により顔面神経軸索損傷を脳幹内で作成した。頭蓋骨外の末梢部分での軸索損傷では顔面神経細胞は9割以上が生存しているにもかかわらず、脳幹内損傷ではほぼすべての顔面神経細胞は逆行性変性に陥った.その経時的生存率は,健常側に比して第14病日で25±3%,第28病日で3±1%であった。この顔面神経核の逆行性変性モデルの変性過程における一酸化窒素(NO)と内在性エリスロポエチン(EPO)ならびにEPO受容体(EPO-R)の発現の詳細を調べ,さらに遺伝子組み替えヒトエリスロポエチン(rhEPO)の腹腔内投与による神経細胞保護効果の可能性を検討した.組織学的検討にでは,正常組織では星状膠細胞膜がEPO陽性,顔面神経細胞膜がEPO-R陽性,かつそれぞれの細胞はNADPH-diaphorase陰性であった.顔面神経軸索損傷により,顔面神経核周辺にEPO陽性星状膠細胞が集積した.一方,生存顔面神経細胞に占めるNADPH-diaphorase陽性細胞の比率は,第4病日で20±3%,第7病日で47±3%,第14病日で99±7%,第28病日で91±3%であった.rhEPOを連日腹腔内投与(5000U/kg)することにより,NADPH-diaphorase陽性顔面神経細胞の比率は有意に低下し,第7病日で35±1%,第14病日で75±5%,第28病日で81±5%であった。一方、生存神経細胞は,第7病日で61±3%,第14病日で43±7%,第28病日で8±1%と有意に増加した.以上の結果より,ラット顔面神経脳幹内損傷軸索に対してrhEPOを外因性に投与することで,顔面神経細胞の逆行性変性,脱落を抑制することができた.これは,脳幹内損傷顔面神経細胞の逆行性変性・脱落にNOによる酸化ストレスが関与し,外因性rhEPOがこれを抑制することにより神経保護作用を示すことが推察された。今後さらに逆行性変性の過程の詳細を検討し、その抑制機構と再生促進因子の作用機序を追及することで、単に神経脱落の現象を理解するにとどまらず、再生能力に乏しい中枢性軸索の生存保持・再生の糸口をつかむことが可能となると考えられた。
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