研究課題
側頭葉てんかんにおいては、抑制系神経細胞の脱落がてんかん病態進行の主要な一因とされる。この減少した神経細胞を移植で補うことにより、その病態の進行を抑制できるのではないかと期待し研究を行った。微量のカイニン酸を定位的に右側海馬に投与しモデルを作成、次いで移植を行った。これまでの結果、培養神経幹細胞、マウス骨髄由来の間葉系細胞では生着がほとんど認められなかった。昨年度後半より今年度には生着率、分化能ともに最も優れていることが期待される胎児脳組織の移植を試みた。胎生19-20日目の海馬を取り出し、処理した後細胞移植した群と、単に細切のみの処置と細いハミルトン針に吸引して移植した群(組織移植群)の2グループで検討した。移植細胞はBrdUにより標識した。組織移植群では生着はよく、移植後4-6週では神経細胞の形態を示す細胞が多数認められた。細胞移植群は海馬周辺の髄液腔での生着は多く認められたが、海馬内の生着細胞は少なかった。これら移植マウスについて脳波記録を段階的に施行し、対照群と比較した。このマウスでは高頻度に発作を繰り返すが、移植群と対象群に全く差は認められなかった。組織の検討では移植片内に神経細胞へ分化を示すDCX陽性が認められ、さらにGABA陽性細胞、VGluT1・2陽性のグルタミン系細胞へ分化した細胞も認められた。しかし、実際に移植細胞の神経突起がrecipient側に伸長している所見は乏しかった。また神経細胞への分化傾向は同条件で移植されたマウス間でも一定の傾向はなかった。以上より、有効な移植細胞とrecipentとの融合を得るためには、厳密な移植条件が必要とされることが示された。また今回の移植で数匹のマウスで比較的多数のGABA陽性細胞が認められたが、これら神経より遊離される抑制物質の量では有意なてんかん性異常脳波の発生には抑制効果が得られないことが示された。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (1件)
J. Neuroscience 26巻
ページ: 4701-4713