研究概要 |
悪性神経膠腫、中でも多形性膠芽腫は難治性の腫瘍であり、様々な診断及び治療技術が発達した現代においても生存率はここ数十年改善がないのが現状である。このような状況の中で新たな治療法の開発が望まれる。近年自然界に存在する蛇毒等の成分が、様々なヒトの腫瘍に対し抗腫瘍効果を示すことが示唆されている。我々は、沖縄に生息するハブの毒腺から抽出された55kDのタンパク質をOkinawa Habu Apoxin Protein-1(OHAP-1)と命名し、これが悪性神経膠腫細胞に対しアポトーシスを誘導することを示した。アポトーシスにはp53が重要な役割を担っていることが示されており、今回はOHAP-1の細胞増殖抑制効果をp53野生株(A172, U87)、p53変異株(U251, T98G)を用いて研究した。まず、OHAP-1の細胞増殖抑制効果を濃度を変えてMTT assayにより検討した。その結果、p53の状態に関わりなくすべての細胞株においてOHAP-1の濃度依存性に細胞増殖抑制効果が認められた。また、カフェインはX線などの放射線の殺細胞効果を増強することが知られているが、このような現象がOHAP-1投与後にもみられるかどうかを検討した。OHAP-1の濃度は2.5, 5μg/mlとし、カフェインを5mMの濃度で添加すると、OHAP-1を単独で用いたときよりも最大50%程度の細胞増殖抑制効果の増強が認められた。flow cytometryを用いて細胞周期の解析を行うと、T98Gでは、OHAP-1単独投与により生じたG2/M blockが、カフェイン投与により消失していることがわかった。カフェインの殺細胞効果増強の機序として、DNA修復に係わるタンパク質ATMの働きを阻害することが示唆されているが、同じp53変異株であるU251ではこのような現象は認められず、その他の機序の関与も否定できない。以上、ハブ毒が培養細胞レベルでは悪性神経膠腫に対しても抗腫瘍効果を持つことが示されたが、今後は、臨床応用を目指し、さらなる研究が必要である。
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