本研究の目的は椎間板ヘルニアにおける神経根性疼痛メカニズムを解明し、効果的な薬物療法を開発することである。当初の計画では髄核留置モデル(SDラットの切断尾椎から摘出した髄核組織を腰髄神経根上に自家移植することで約2週間、神経因性疼痛を引き起こすモデル)を用いて、COX-1選択的阻害剤、COX-2選択的阻害剤、5-HT2A阻害剤の疼痛抑制効果を神経根処置後3日(急性期)と10日(慢性期)で、比較検討する予定であった。しかし、髄核留置モデルでは、治療薬の違いによる疼痛抑制の差をみるには、神経因性疼痛の強度と持続期間が不足していることが判明した。そこで、動物モデルを改善すべく、2つの方法を試みた。1つは椎弓切除により露出したL4、L5神経根を5-0ナイロン糸で緩く結紮した上に髄核を留置する方法(神経根結紮髄核留置モデル)であり、神経因性疼痛は従来の髄核留置モデルよりも、明白で長期(3週間)持続した。もう1つはラット尾椎の椎間板に慢性圧迫力を一定期間加える装置(イリザロフ型創外固定器)をつけて変性させた髄核をL4、L5神経根上に留置する方法(変性髄核モデル)であり、このモデルにおいても従来の髄核留置モデルよりも明白で長期に及ぶ神経因性疼痛が観察された。そこで、変性髄核モデルにおける神経因性疼痛増強のメカニズムを探る目的で、正常な髄核と8週間慢性圧迫を加えた髄核内のpHを微小電極で測定し、さらに髄核内のTNF-α、IL-1β、PLA_2を免疫組織化学染色により比較した。その結果、変性髄核のpHが低下していること、TNF-α、IL-1β、PLA_2は正常・変性いずれの髄核内にも発現しており、その染色性に差がないことが明らかとなった。平成18年度は改良したモデルを用いて、当初の目的であった選択的COX阻害剤の役割を解明する予定である。
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