研究概要 |
外部環境の変化により生じる機械的刺激に対して,細胞が種々の応答を行うことにより,生体はその変化に適応してきた.このような生命の神秘を解明し,ティッシュエンジニアリングいう最新の工学手技を利用して,治療に応用しようとするのが本研究の目的である.脚延長術は骨や筋肉・血管といった軟部組織を伸張して、組織を増殖・改変させる技術である.そこで骨芽細胞を対象に,脚延長時と同じ牽引負荷におけるフリーラジカル産生の有無をin vitroで検討することを第1の目的とした.また脚延長仮骨をin vivoのモデルとして使用し、生体内での調節機構を検討することを第2の目的とした.平成16年度にはFlexercell strain unit(FX-3000)を用いて骨芽細胞に周期的牽引負荷を加え,フリーラジカル産生を検討した.牽引負荷によりフリーラジカルおよびその中和剤であるSODの産生亢進を認めた.このことは,骨芽細胞に対する機械的刺激がフリーラジカルという調節因子を介して何らかの細胞応答に変換されている可能性を示唆している.平成17年度はこの調節機構mRNAレベルでの確認した.さらに,細胞内のフリーラジカルを速やかに増加させる薬剤であるパラコートを使用して,細胞内でのレドックス制御を検討した.これにより,細胞内フリーラジカルがSOD活性を自己調節しているという興味深い知見を得た.一方脚延長仮骨の系では血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor, VEGF)に注目した.VEGFは低酸素状態で誘導されることが知られており,我々はこれまでに延長仮骨での酸素分圧の低下を確認している.平成17年度の検討より,延長仮骨におけるVEGFの誘導が免疫組織化学的に証明された.平成18年度はこれらの所見を総合し,機械的ストレスによって誘導される活性酸素およびSOD誘導の機構について解析した.これまでの先行研究は,外因性に酸化ストレスを加える目的で過酸化水素添加などを添加し,これによるSOD誘導などが検討されてきた.しかし平成17年度の我々のパラコートを用いた検討により,内因性に活性酸素を発生させたほうが,有意に多くのSOD発現を誘導した.したがって,機械的ストレスによって誘導される細胞内のレドックス環境の変化がSOD誘導の重要な機構であることが示唆された.実際に,細胞膜透過性のSODを使用した場合,明らかに細胞内のSOD誘導が亢進された.一方,延長仮骨で証明されたVEGFの誘導については,新たに局所で圧迫力を加える系を開発し,同部における血管誘導のみならず,VEGFの誘導およびその上流の調節機構も解明された.
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