研究概要 |
ペインクリニック領域では、神経因性疼痛と呼ばれる難治性の疼痛疾患を数多く扱う。中でも、脳出血・梗塞後に痛みを生じる症例があるが、脳卒中後に痛みが出ることはむしろ稀である。痛覚伝導路の脊髄視床路-視床大脳皮質路が障害を受けると痛みが生じやすいとの仮説が従来から知られているがヒトでそれを示した研究は無い。また神経伝導路(白質)は灰白質と灰白質をつなぐ中継路として重要であるが、従来の脳機能画像研究ではその白質の機能に関して示されることは無かった。我々はヒト脳の線維連絡(白質)を、MRIを用いた拡散強調画像解析によって行った。General Electric社1.5T MRI(使用コイル:8HRBrain)を用い、T1,T2強調画像および拡散テンソル画像を撮像する。撮像条件は、TR/TE=15000/87.8ms,MPG印加軸6軸,b=1000s/mm2,スライス厚4mm/gapless(interleave),FOV24cm,matrix128*128,2NEX,撮像時間5分36秒。得られた画像の3次元的な再構築をVolune-Onever.1.64(Volume-One開発者グループにより配布されているソフト)によって行う。その三次元画像に対して、dTV.II(東京大学放射線科開発のソフト)を用いて、起始領域を視床、目標領域を中心後回(一次体性感覚野)に指定し、視床-大脳皮質路の白質線維の走行を描写(tractgmphy)する。撮像条件のセットアップを完了し、実際の患者群を対象とした研究を進めているところであり、健常コントロール成人8名、痛みを有する脳卒中症例3名(視床痛)、痛みの無い脳卒中コントロール患者3名に加え、難治性落痛疾患患者(腕神経叢引き抜き損傷後疼痛患者1名・頸肩腕症候群2名・三叉神経痛1名・偏頭痛1名)をコントロール群としてMRIの撮像を完了している。現在、各被験者についての画像処理を行っており、今後は引き続き被験者数の増加を図るとともに、脳卒中部位と障害白質線維の関係性について詳細な検討を行っている。さらに、視床血流が神経因性疼痛と相関があることが知られており(Lancet1999;354P1790-1)、視床機能、特に空間認知機能をCRPS患者を対象に評価した。方法は、主観的自己正中(SM : subjective body-midline)判断タスクを用い、明所では客観的自己身体正中とほぼ等しい位置であったが、暗所ではSMは患側に有意に偏位した。さらに、神経プロックによる求心路遮断中にはこのSMは健側方向に偏位し、神経ブロックの効果が消失すると再度、患側に偏位した。これらの結果から、自己正中座標軸は身体左右からの情報入力の大きさに依存していることが明らかになった。また、CRPSは体性感覚系の異常のみだけでなく高次脳機能にも関与しており、治療者はこのことにも注意を払う必要がある。(本研究の内容は、2005年8月国際疼痛学会(オーストラリア・シドニー)で発表し、現在、投稿準備中である。
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