研究概要 |
周術期管理学の長足の進歩にも関わらず、急性腎不全(Acute Renal Failre : ARF)の死亡率は依然として高い。現在のARFの治療法は血液浄化療法を始めとして、生体の恒常性を維持しながら腎機能の回復を待つ保存的療法であり、腎細胞機能の回復を促す積極的治療法は未だ無い。我々はこれまで、ARFの新しい治療法を開発する目的で、腎虚血再潅流によるラット虚血性急性腎不全(Ischemic ARF : IARF)モデルを作成し、虚血腎にストレス蛋白:heme oxygenase-1(HO-1)が誘導され、HO-1活性を抑制すると腎障害が悪化することを報告した(CritCareMed,2000)。さらに、ラットの必須微量元素であるスズ(SnCl_2)をこのモデルに投与すると腎尿細管細胞特異的にHO-1が誘導され、IARFに対する治療効果があることを示した(Crit Care Med,2002)。本研究ではHO-1誘導を治療応用に近づけるために、臨床的にIARFを引き起こすラット出血性ショックモデルを作製した。その結果、出血性ショック蘇生(Hemorrhagic Shock followed by Resuscitation : HSR)により腎にはHO-1が強く誘導され、腎保護効果を示すことが明らかとなった。一方、この研究を行う過程で肺ではHSRによりHO-1が殆ど誘導されず、急性肺傷害1急性呼吸促迫症候群(ALI/ARDS)が発生することを見出した。そこで、このALI/ARDSに対してHO-1の強力な誘導物質であるHeme Arginate(HA)を投与したところ、肺に誘導されたHO-1を介して炎症が軽減し、ALI/ARDSに対し著明な治療効果を示すことが明らかとなった(Biochem Pharmacol,2005)。
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