我々の以前の研究により、中枢ヒスタミン濃度の増加が虚血性脳障害を改善させることが明らかであるので、本研究では、脳虚血後の軽度低体温とヒスチジンの腹腔内投与の効果を比較検討した。雄性スナネズミをハロタンで麻酔した後、両側総頚動脈を閉塞し4分間の一過性前脳虚血を負荷し、その後血流を再灌流させた。実験1では、生食(10μl)またはヒスタミン(10nmol、100nmol、1000nmol)を血流再開直後に脳室内投与し、虚血性神経細胞障害が軽減するか検討した。虚血7日後、海馬CA1領域における神経細胞死が、ヒスタミン(1000nmol)投与により軽減した。実験2では、ハロタン麻酔下に血流再開直後、6時間後および24時間後に生食(10ml/kg)またはヒスチジン(1000mg/kg)を腹腔内投与した群、および、ペントバルビタール麻酔下に体温を血流再開3時間37℃に維持した群、および軽度低体温(33℃)を3時間維持した群の計4群間で、虚血性神経細胞障害の程度を検討した。血流再開7日後の海馬CA1領域における虚血性神経細胞障害は、軽度低体温群よりもヒスチジン(1000mg/kg 3回)投与群で有意に軽減した。実験3では、ハロタン麻酔下に血流再開直後、6時間後および24時間後にヒスチジン(1000mg/kg)を腹腔内投与した群、同様にヒスチジン(1000mg/kg 3回)腹腔内投与+血流再開直後および6時間後にH3受容体遮断薬であるチオペラミド(5mg/kg)を皮下注射した群、ペントバルビタール麻酔下に血流再開3時間体温を軽度低体温(33℃)に維持した群で効果を比較検討した。血流再開60日後の虚血性神経細胞障害は、ヒスチジン+チオペラミド群で著しく軽減した。以上の結果から、中枢ヒスタミン神経活動の促進が、軽度低体温療法よりも虚血性脳障害に対して有効であることが示された。
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