脳は虚血に対して脆弱な臓器であり、虚血後に施行して障害改善に有効な処置はほとんどないのが現状である。脳虚血による障害には血流再開後の炎症反応が深く関与しているので、血流再開後の炎症反応の防止が虚血後に施行して有効な治療となりうる。ヒスタミンは炎症誘発物質であるが、炎症部位で誘導されるヒスタミンには逆にH2受容体を介して炎症を抑制する作用がある。そこで本研究では、虚血後の中枢ヒスタミン濃度増加と虚血性脳障害の関連を調べた。ヒスチジン末梢投与により中枢ヒスタミン神経活動を亢進させると、ラット右中大脳動脈2時間閉塞による24時間後の脳梗塞の大きさが用量依存性に縮小した。また、ヒスチジンによる改善効果は、H2遮断薬であるラニチジンの脳室内投与により完全拮抗された。中枢ヒスタミンH3遮断薬であるチオペラミド、中枢ヒスタミン代謝阻害薬であるメトプリンをヒスチジンと同時投与すると、脳梗塞縮小効果が促進した。スナネズミ4分間両側総頸動脈閉塞モデルによる7日後の遅発性神経細胞死に対しても、ペントバルビタール併用3時間軽度低体温群による改善よりも、顕著な効果を示した。さらにヒスチジンにチオペラミドを併用することで、60日後の長期結果も著しく軽減された。以上の結果から、ヒスチジン、H3遮断薬、ヒスタミン代謝抑制薬は、虚血性神経細胞障害に対し軽度低体温療法よりも有効な治療法となりうる。
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