我々は新しい視点から麻酔薬の作用機序の解明をめざすべく、神経細胞の運動能に対する麻酔薬の効果に注目した。麻酔薬により神経細胞のdendritic spineの運動性が抑制されることにより、シナプス伝導も抑制され、麻酔効果が現れるという仮説をたてた。 一般にアクチン線維を多く含む細胞が運動する際には、膜ラッフリングやフィロポディアという、アクチン豊富な構造が形成されることが知られている。まず、培養細胞をphorbol12-myristrate 13-acetate(PMA)で刺激すると、膜ラッフリングが形成されることを確認した。この際、麻酔薬で培養細胞を前処置した場合に膜ラッフリングが形成されなくなるかどうかを、細胞内のアクチンを蛍光色素で染色し、蛍光顕微鏡で観察して調べた。当初は吸入麻酔薬を細胞培地内に混入して影響を調べたが、麻酔薬の濃度を一定に保つことが難しく断念した。次に静脈麻酔薬Propofolを用いて同様の実験を行ったが、ラッフリング形成阻害作用は認められなかった。PMAでは刺激が強すぎると考え、刺激剤としてPDGFを用いて同様の実験を行ったが、やはりラッフリング形成阻害作用は認められなかった。PDGFの濃度・刺激時間、propofolの濃度などを様々に変えて実験を行ったが、それでも阻害作用は認められなかった。細胞の形態で判断するのは難しいと考え、生化学的な手法を用いた実験の準備中である。
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