我々は新しい視点から麻酔薬の作用機序の解明をめざすべく、神経細胞の運動能に対する麻酔薬の効果に注目した。麻酔薬により神経細胞のdendritic spineの運動性が抑制されることにより、シナプス伝導も抑制され、麻酔効果が現れるという仮説をたてた。 一般にアクチン細胞骨格の再構成にはRac、Cdc42というRhoファミリー低分子量Gタンパク質が関わっていることが知られており、生化学的手法によりNMDA刺激時の神経細胞における活性化型Rac、Cdc42の定量を試みた。方法としては、PAK(Rac、Cdc42の活性型のみと結合することが知られている蛋白質)のGST(glutathion-S-transferase)融合蛋白質を用いて活性化型のRac、Cdc42を回収し、SDS-PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)を用いて分離したのち、ウェスタンブロット法を用いて定量した。しかし、GTPase活性が強い為か、活性化型のRac、Cdc42を検出することは困難を極めた。そこで、やはりdendritic spineの形態のコントロールに関わっているといわれているRap1(Rasファミリー低分子量Gタンパク質)の活性化型の定量を、同様の方法を用いて行った。その結果、神経細胞を興奮性アミノ酸であるAMPAで刺激することにより、Rap1のタンパク質発現量は変化しないが、活性化型Rap1の量がAMPAの濃度依存性に減少することがわかった(新しい知見)。今後は、麻酔薬によりこの現象がどのような影響をうけるかという方向へ展開させていく。
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