ラット大動脈遮断モデルを用い、脊髄虚血後のモルヒネ誘発対麻痺の発生機序に関する研究を行っている。 脊髄虚血後のモルヒネ誘発対麻痺は、オピオイド受容体を介する反応であるが、合成麻薬であるペンタゾシンやブプレノルフィンでは対麻痺を誘発することはできなかった。このことは、臨床的に胸腹部大動脈手術後の術後鎮痛薬として、モルヒネに変わりペンタゾシンあるいはブプレノルフィンの有用性を指摘するものである。脊髄虚血後のモルヒネ誘発対麻痺では、脊髄前角細胞の細胞死が起こることを指摘してきた。その細胞死の原因として、グルタミン酸濃度の上昇が関与し(マイクロダイアライシス研究)、さらにグルタミン酸受容体拮抗薬であるMK-801でその細胞死を抑制できることを証明した。このことから、脊髄虚血後モルヒネ誘発対麻痺では、グルタミン酸受容体拮抗薬により神経機能を温存できる可能性が出てきた。 虚血脊髄にモルヒネが作用することにより、特に脊髄でのグリア細胞-神経コミュニケーションの変化を来たしているかを検討するために、GAP43(Gap Junction特有蛋白)の変化を調べた。6分間脊髄虚血後のモルヒネ投与によるGAP43の変化では、脊髄後角〜前角にかけてモルヒネ非投与群と比較し、著明な変化はみられなかった(免疫組織染色)。ところが、軸索に多く存在するMAG(ミエリン関連蛋白)の免疫染色では、偽手術後のモルヒネ投与群や脊髄虚血後の生理食塩水投与群に比較し、脊髄虚血後モルヒネ投与群においてMAG蛋白の発現が低下していた。 これらのことより、脊髄虚血後のモルヒネ投与により起こる対麻痺は、ミエリンを有する軸索に何らかの変化が起こりそれにより神経活動あるいは刺激伝導(シナプス伝達も含む)に変化が起こったことに起因する可能性が出てきた。
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