平成16年度は、血管内皮細胞における容量性カルシウム流入に対する揮発性麻酔薬の影響を検討した。カバーグラス上に定着させたウシ大動脈由来培養血管内皮細胞をFura-2でインキュベートした後、密閉性の高いclosed chamberに装着した。Ca^<2+>freeのHEPES-bufferにて潅流し、Thapsigargin10^<-7>Mを投与して小胞体内Ca^<2+>を枯渇させた。潅流液中のCa^<2+>濃度を2.2mMに上昇させることにより容量性Ca^<2+>流入を引き起した。Ca^<2+>freeのHEPES-bufferとCa^<2+>2.2mMのHEPES-bufferを交互に還流させることにより、再現性のある容量性Ca^<2+>流入が得られた。ハロタン、およびセボフルラン(2MAC)を適用することにより、容量性Ca^<2+>流入は有意に抑制された。抑制の強さは、ハロタン>セボフルランであった。容量性Ca^<2+>流入の調節に関与していると考えられているProtein kinase Cの阻害薬であるBIS-1 3x10-6Mの前適用により、ハロタンの抑制作用は有意に拮抗された。一方、セボフルランの抑制作用は、BIS-1の影響を受けなかった。 平成17年度は、ウシ大動脈由来培養血管平滑筋細胞を用いて同様の実験を行った。ハロタン、イソフルランあるいはセボフルラン(1〜3MAC)に暴露させた血管平滑筋細胞で同じ測定を行ったところ、ハロタン>イソフルラン>セボフルランの順で、それぞれ濃度依存性に容量性Ca^<2+>流入を抑制した。次に、BIS-1 3x10-6Mの前適用によりハロタンによる容量性Ca^<2+>流入の抑制が拮抗されたが、イソフルラン、セボフルランの抑制作用には影響しなかった。 以上の結果より、血管内皮細胞および血管平滑筋細胞において、揮発性麻酔薬は濃度依存性に容量性Ca^<2+>流入を抑制し、その抑制作用にはProtein kinase Cに対する作用の関与が示唆された。
|