研究概要 |
ヒト悪性腫瘍細胞をin vitroで種々のオピオイドの抗癌作用とその機序を検討してみた。モルヒネでは、臨床使用濃度において正常細胞には傷害を与えず、HL-60,A549(ヒト肺癌細胞),MCF7(ヒト肺癌細胞)を選択的に傷害する。この抗癌作用はHL-60,A549ではアポトーシス誘導が、MCF7(ヒト乳癌細胞)では非アポトーシス誘導が主たる機序であった。モルヒノン(モルヒネの酸化生成物)もHL-60、ヒト口腔扁平上皮癌細胞に対して強力に抗癌作用を発揮する16)。そして、この抗癌作用はオートファジー誘導によることが強く示唆された。また、オピオイドのオートファジー誘導による抗癌作用はHL-60と比べて口腔癌細胞では弱かった。以上のことから、オピオイドの抗癌作用は、オピオイドの種類によって効力、及び、誘導される細胞死のタイプが異なること、α、β不飽和ケトン類(コデイノン、モルヒノンなど)のオピオイドは、強力な抗癌作用を有すること、また、癌細胞の種類によってもオピオイドの感受性や細胞死のタイプが異なることが明らかとなった。次に、種々の局所麻酔薬と静脈麻酔薬の抗癌作用について検討した。局所麻酔薬について各悪性腫瘍細胞に対する抗癌作用はジブカイン、テトラカイン、ブピバカイン、リドカイン、メピバカイン=プロカインの順であった。腫瘍選択性はジブカイン、ブピバカインが比較的高かった。ジブカインは、特に口腔扁平上皮癌細胞に対する感受性が高かった。リドカインはいずれの癌細胞においても腫瘍選択性は低かった。次に、プロポフォールの影響を見てみると臨床使用濃度よりもかなり高濃度となって初めて悪性腫瘍細胞と正常細胞の双方に細胞傷害作用が見られ、腫瘍選択性が低いことがわかった(腫瘍選択係数。むしろミダゾラム、ジアゼパムの方が抗癌作用は強く腫瘍選択係数も高かった。また、チアミラールは口腔扁平上皮癌で比較的感受性が高かった。
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