研究概要 |
慢性疼痛のモデルとして,全身麻酔および局所麻酔をしたラットの左側大腿部を切開して坐骨神経を結紮・切断して持続的侵害刺激を与えた.その結果,腰髄,中脳水道周囲灰白質と帯状回のC-Fos細胞はいずれの領域においても,各生存期間によってC-Fos細胞数の増減があることがこれまでの実験で明らかになった. 神経切断によって各領域に生ずるC-Fos細胞数が種々の鎮痛剤(SSRI,芍薬甘草湯,サリドマイド)に対してどのような影響を受けるかを実験した.神経切断後に薬物入り資料を与えた例と切断だけの例に生じるC-Fos細胞数を比較するため,腰髄,中脳水道周囲灰白質中間の高さ(PAG)帯状回の吻側部と尾側部に出現したC-Fos細胞を描画装置を用いて描いて細胞を数えた. (1)モルヒネ投与例:第5腰髄の各層に出現して減少した.PAG背側部では変化がなく,外側部と腹側部で減少した.帯状回吻側部のII層とIII層では減少したが,IV層では増加し,尾側部のII層では増加したが,III層とIV層は減少した. (2)SSRI投与例:第5腰髄の各層に出現し,層により差はあるが減少した.PAGでは増加した.帯状回吻側部のII層とIII層では減少したが,IV層では増加し,尾側部では変化がなかった. (3)芍薬甘草湯投与例:第5腰髄は層により増減があり,PAGで増加した.帯状回吻側部のII層とIII層では減少したが,IV層では増加し,尾側部では変化がなかった. (4)サリドマイド投与例:第5腰髄のどの層も減少した.PAG外側部で減少し,背側部と腹側部では数に変化がなかった.帯状回吻側部のII層とIV層では増加したが,III層では変化なく,尾側部で減少した. これらの結果より,上配薬物は腰髄での痛み反応を抑制した.PAGはモルヒネにより,下行性痛覚抑制系を抑えて,SSRIと芍薬甘草湯は,下行性痛覚抑制系を活性化した.なお,モルヒネとサリドマイドは帯状回尾側部は,慢性痛によって起こる忌まわしい体験を減弱させると考える.
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