研究概要 |
小児の鼠径ヘルニアなどの術後鎮痛に腸骨鼠径神経および腸骨下腹神経ブロック(以下神経ブロック)は広く用いられているが、ロピバカイン至適濃度については明らかにされていない。今回われわれは、両親の同意を得た患児を対象に、前向きの2重盲検法で、神経ブロック施行時に無作為に0.5%と0.2%ロピバカインのいずれかを用いた2群に分け、両群間に術後鎮痛効果、加えて、自律神経活動とストレス状態に差があるか否かを検討した。 <対象> ASA1-2の鼠径ヘルニアまたは陰のう水腫の手術を受けた30名の児(1-5歳)。 <方法> 手術前日に自律神経活動を評価するため心電図、ストレス評価の指標であるクロモグラニンAを測定するため唾液を採取した。前投薬は手術室入室30分前に、ミダゾラム0.3mg/kgを経口投与した。セボフルラン、亜酸化窒素、酸素を用いたマスク導入後、0.5%または0.2%ロピバカイン(以下Rと略す)(0.6ml/kg)のいずれかで神経ブロックを施行した。術中はマスク下で前述の麻酔薬を用いて麻酔を維持した。手術終了2,6時間後に、痛みの評価法としてMBPSとmCHOPSを用いて鎮痛効果を評価、同時に手術前日と同様に心電図測定と唾液を採取した。 <結果> 0.2%R群15名、0.5%R群15名で背景因子は差がなかった。0.2%Rと0.5%群のMBPS中央値は、それぞれ2時間後で(1.0,2.0)、6時間後で(1.0,0)と両群問に有意差を認めなかった。mCHOPSも同様に差を認めなかった。両群ともに追加した鎮痛薬はなかった。合併症は認めなかった。自律神経の活動状態、クロモグラニンAの測定結果も両群間に差を認めなかった。 <結語> 小児の鼠径ヘルニアなどの術後鎮痛に腸骨鼠径神経および腸骨下腹神経ブロックの鎮痛効果を多面的に評価した結果、0.2%R群は、0.5%Rと同等の鎮痛効果を認めた。以上から腸骨鼠径神経および腸骨下腹神経ブロックに使用するロピバカインの示適濃度は0.2%であると結論する。
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