本研究では、染色体ならびに遺伝子変異が前立腺癌の発症・進展・予後に与える影響を検討し、新たな生物学的マーカーとしての臨床的な意義を明らかにすることを目的として研究を行った結果、いくつかの遺伝子と前立腺癌との関連が明らかになった。 lipoprotein lipase遺伝子(LPL)は、複数の遺伝子多型を有することが明らかにされている。LPL活性の上昇を来たすとされるSer447stop CG+GG遺伝子型の頻度は前立腺癌患者で有意に高く、CG+GG遺伝子型は前立腺癌の発症や悪性進展度に影響を与えることが示唆された。 またInsulin-like growth factor-I(IGF-I)遺伝子多型について検討したところ、前立腺癌のリスクは反復数18未満の例と比較して反復数19を持つ例で有意に高かった。また、反復数19アレルは遺伝子量効果をもって前立腺肥大症と前立腺癌の危険アレルであり、本多型が前立腺癌の発症に関わっている可能性が示唆された。 さらに、前立腺癌の進展と遺伝子変異との関連を検討した。我々は、宿主側の因子として遺伝子多型(genetic polymorphism)に注目し、転移性前立腺癌患者の予後を規定する遺伝子多型マーカーの検索を行った結果、2つの遺伝子多型(IGF-I、CYP19)が転移性前立腺癌の予後規定因子となりうる可能性が示唆された。 本研究においての成果は、前立腺癌の発症や進展に関わるいくつかの重要な遺伝子変異を明らかにしたことであり、将来的には前立腺癌の予防プログラムが個々の遺伝子情報を加味した個別化がなされていく上で大きな意義を持つと考えられる。さらに、前立腺癌の予後規定因としての遺伝子多型マーカーは、根治手術や放射線照射後の再発性前立腺癌にも応用できる可能性があり、治療計画や経過観察における個別化を進める上で重要な情報を提供するものと期待される。
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