研究概要 |
進行性前立腺癌においては内分泌療法が治療の根幹をなす一方で,ホルモン非依存性癌における有効な治療法は未だ確立されていない.我々は前立腺癌に対する遺伝子治療,特に癌細胞特異的プロモーターを利用したストラテジーを研究してきた.以前よりPSAプロモーターを用いた前立腺癌細胞特異的遺伝子発現系の研究が欧米で精力的になされ,米国では同プロモーターを用いた前立腺癌遺伝子治療の臨床治験も行われてきた.しかし,遺伝子治療に用いる上で,PSAプロモーターの欠点がいくつか明らかになってきており,何らかの改良が必要と考えられる. 今回,我々はPSAのプロモーター領域を詳細に再検討することによって,前立腺癌細胞特異性を保持しつつこれらの問題点を克服したキメラPSAプロモーターを新たに構築した.このプロモーター活性はアンドロゲンのみならずデキサメサゾン(DEX)によっても誘導されると共に,そのプロモーター領域にinternal deletionやsite-specific mutagenesisの手法を用いて種々の修飾を施すことにより,その活性の増強が可能であった.最もプロモーター活性が高かったPSAキメラプロモーターを用い,それによってドライブされる治療用遺伝子として,アポトーシス誘導遺伝子や癌抑制遺伝子,あるいは将来の放射線療法との併用を念頭に放射線感受性増強作用のある自殺遺伝子を組み込んだ発現ベクターを順次構築していく予定で,今年度は自殺遺伝子CDとUPRTを組み込んだ発現ベクターを構築した.さらに,このプラスミドからPSAプロモーターと自殺遺伝子とポリA配列をインサートとして切り出し,コスミドペクターに挿入後,アデノウイルスベクターを作成予定である.我々が目標としているDEX投与とPSAキメラプロモーターを利用した遺伝子治療という新たな集学的治療戦略は,今後の再燃前立腺癌に対する治療のブレークスルーになりうる可能性があり,学問のみならず社会に大いに貢献しうると考えられる.
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