研究概要 |
カテーテル留置複雑性尿路感染症をはじめとする慢性感染症において、細菌biofilmの存在はその難治性の要因となっている。今年度は、新しい実験モデル系であるキャピラリーフローセルシステムを使用して抗菌剤の有効性評価を行い、新知見を得た。Pseudomonas aeruginosa OP14-210およびGFP(green fluorescent protein)産生OP14-210(pMF230)株を用いた。人工尿における浮遊菌に対するレボフロキサシン(LVFX)、ホスホマイシン(FOM)、アジスロマイシン(AZM)のMIC(μg/ml)は、それぞれ8、64、>2048であった。ガラスキャピラリー中に菌株を接種して、人工尿を20ml/hの流速で灌流しbiofilmを形成させた。LVFX10xMIC、FOM3xMIC、AZM2,8,32μg/mlの薬剤濃度を作用させた。GFP非産生株が形成したbiofilmは、蛍光染色キットを用いて生菌と死菌を染め分け、GFP産生株が形成したbiofilmと同様、共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察した。GFP産生株に接種直後から薬剤を作用させて3日後に観察すると、FOM単独では疎なbiofilmを形成するものの、LVFX単独、LVFX・FOM併用ではbiofilmの形成を認めなかった。AZM単独の場合は薬剤無添加の場合と同様、いずれの薬剤濃度においても均一かつ密なbiofilmを形成した。GFP産生株が1日後に形成したbiofilmに72時間薬剤を作用させると、LVFX単独・FOM単独では明らかな効果を認めなかったが、併用効果としてのbiofilmの解離を認めた。GFP非産生株が2日後に形成したbiofilmに18時間薬剤を作用させると、LVFX単独では死菌が浅層部で多く観察された。FOM単独では生菌の分布が薬剤無添加と同程度に確認された。LVFXとFOM併用では深層部まで死菌が観察され、併用効果が認められた。本実験系において緑膿菌biofilmに対するLVFXとFOMの併用効果は認められたものの、AZMのsub-MICによるbiofilm形成抑制効果は確認されなかった。本実験系は、抗菌薬を含む抗バイオフィルム剤開発のための評価系として有用であり、植物成分であるポリフェノール類を始めとする抗バイオフィルム剤の探索も行った。
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