研究概要 |
腎細胞癌は生物学的特性の全く異なる複数の腫瘍亜型から構成されていることが明らかになりつつある。我々はこれまでにマイクロアレイ解析を用いて、最も頻度の高い淡明細胞型腎癌で高発現している遺伝子群を100ヶ以上抽出してきた。その中でadipose-diffentiation related protein(ADFP)が、淡明細胞型で特異的に高発現していることをreal-time PCR法、免疫染色法で確認した。今回この遺伝子の発現レベルと淡明細胞腎癌の臨床病理および患者予後との関係の詳細について検討した。散発例の淡明細胞腎癌312例をretrospectiveに解析、ADFPの発現はreal-time PCRで定量した。ADFPは腫瘍のgrade, stageが低い群で発現が高く、それらが上がるにつれて発現量が落ちていた。またADFPはVHL/HIFの下流で転写調節をうけていると考えられるが、それを裏付けるように、VHL変異(-)群に比べ、変異(+)の淡明細胞腎癌で発現量が高かった。さらにADFP高発現群は単変量、多変量解析で有意に予後良好であった。VHL/HIFの下流に存在するADFPは、淡明細胞腎癌の有用な診断・予後マーカーの一つになりうると考えられた。さらに淡明細胞型で高発現している遺伝子の一つとしてnicotinamide N-methyltransferase(NNMT)も同様にマイクロアレイ解析で見い出した。real-time PCR法ではこの遺伝子は淡明細胞型でのみ特異的に高発現がみられ、正常腎および他の非淡明細胞型腎癌ではほとんど発現が検出されなかった。この遺伝子の発現レベルとstage, grade等の臨床因子、予後との関係では明らかなものは見出せなかったものの、淡明細胞型ではユビキタスに高発現しているものと考えられた。このことから淡明細胞腎癌の新規の診断マーカーとしての可能性が考えられた。
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