研究概要 |
長期透析患者ではその多くに後天性嚢胞腎(ARCD)を認め、これが腎癌発生の母胎になることが知られている。しかし、嚢胞の形成及び癌化にどのような因子が関与しているかについてはまだ明らかにされていない。本研究では、その過剰発現により腎での嚢胞形成や皮膚癌、乳癌、肝癌を引き起こす肝細胞増殖因子(HGF)とその受容体であるc-metに注目し、臨床検体を用いてその発現を検討した。その結果cuboidalあるいはhyperplastic epitheliumを持つ嚢胞においてHGF/c-met発現の亢進が観察された。Hyperplastic cystでは嚢胞壁の一部から腫瘍が嚢胞内に突出しており、こうした腫瘍でもHGF/c-metの発現が増加していた。Anti-apoptotic proteinであるBcl-2もほぼHGF/c-metと同様な発現を示しており、後天性腎嚢胞の発生から癌化過程においてHGF/c-met pathwayが重要な働きをしている可能性が示唆された(J Urol,171;2166,2004に掲載)。現在、このpathwayに関与する因子について検討しており、Gab-1、Stat3、PTEN、p27、pAktなどの発現の変化が重要な要因になることが判明している。なお、HGF/c-metと同様に癌化過程において重要な役割を演じるとされるType 1 insulin-like growth factor receptor (IGF-1R)の発現をみたが、嚢胞及び腫瘍ではほとんど発現しておらず、ARCDの発生及び癌化にはIGF-1Rの関与は少ないと推測された。
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