研究概要 |
膀胱癌に対する第4の治療法を開発すべく遺伝子治療の研究を行っている。本研究準備段階の一環で、膀胱癌におけるアデノウイルスレセプターの発現(coxsackie adenovirus receptor, CAR)が進行癌、高悪性度癌で極度に低下していることが膀胱摘除術標本による研究で明らかになった。また、研究に用いる膀胱癌細胞株において、FACSを用いた検討では高悪性度癌ではCAR発現が極端に低下していた。様々な膀胱癌細胞株に通常アデノウイルスベクター(Ad5)を用いた場合、CAR発現低下を認める細胞では低導入率であった。また、治療的遺伝子(herpes simplex virus tymidine kinase, HSV-tk)を包含するAd5(Ad5HSV-tk)を用いた場合、細胞実験(in vitro)において、抗腫瘍効果がCAR発現依存的に認められた。そこで、CAR発現に依存しないキメラアデノウイルスベクター(Ad5F35)を開発し、まず膀胱癌細胞株への導入効率を検討した。Ad5F35はCAR発現非依存的に感染効率が増強した。さらにAd5HSV-tkとの抗腫瘍効果を比較した場合、Ad5F35HSV-tkは30倍の細胞増殖抑制を示した。本研究成果を踏まえ、動物実験(in vivo)を開始した。Pilot studyとしてCAR発現陽性膀胱癌細胞株(5637)と陰性細胞株(TCC-SUP)をヌードマウスに正着、増大することが確認できた。同動物を使用し、治療的遺伝子2種(Ad5HSV-tk, Ad5F35HSV-tk)の抗腫瘍効果を検討したところ、明らかに腫瘍縮小効果に差が認められた。現在、CAR陽性細胞群と陰性細胞群、各々11群による実験が進行中である。また、膀胱摘除術症例においてAd5F35のレセプターであるCD46を用いた免疫染色よる予後因子としての検討も進行中である。
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