陰茎の勃起状態をもたらすためには陰茎海綿体を弛緩させなくてはならない。陰茎海綿体平滑筋の弛緩の機序はguanylate cyclase(GCase)の活性化によるcGMPの増加とPKGの活性化による。この反応には内皮細胞あるいはnitric oxide(NO)神経からのNO synthase(NOS)によるNO産生が関与している。クエン酸シルデナフィルはこのNOを分解するphosphodiesterase type-V(PDE V)を阻害することによって、各種刺激により陰茎内に増加したNOの効果を増強する。Prostaglandin E_1(PGE_1)はACaseを活性化することにより勃起を起こす。今回はシルデナフィル無効例に対する治療薬を開発するため、摘出ウサギ陰茎海綿体標本を用い、電気刺激(2.5〜40Hz)およびNO-donorであるsodium nitropursside(SNP)の弛緩反応に対するNOS阻害薬L-NAME、soluble GCase阻害薬であるODQおよびPKG阻害薬であるKT5823の影響をPGE_1、PGE_2およびPGE_2受容体サブタイプの刺激薬であるEP2作用薬とEP4作用薬の弛緩反応への影響と比較した。また、PDE V抗体の影響、収縮に関与しているRho kinaseの阻害薬Y27632の影響も検討した。L-NAME処置により電気刺激の弛緩反応は著しく抑制されたが、SNPは影響を受けなかった。ODQ処置では、電気刺激ならびにSNPの弛緩反応は著しく抑制されたが、PGE_1、PGE_2およびEP2作用薬とEP4作用薬の弛緩反応は影響を受けなかったことより、ヒトで有意に発現のみられたと報告のあるEP4作用薬が他のPGより有効であろう。PKG阻害薬であるKT5823で電気刺激ならびにSNPの弛緩反応がまったく影響されず、cGMPによる弛緩反応にはPKGを介する以外の機序がある可能性が浮かび上がった。Rho kinase阻害薬Y27632は陰茎海綿体に弛緩を生じたことより、この薬物が勃起不全の治療に使える可能性を示す。陰茎海綿体と他の臓器の間のRho kinase系の差違を検討する必要があると考える。もし、陰茎のRho kinase系に特異的な個所が見つかったら、そこを標的とする薬物の開発こそが新しい勃起不全の治療薬の開発につながるものと考える。また、PDE V抗体を投与したウサギから摘出した陰茎海綿体は特徴的な自発運動もあまり見られず、電気刺激による弛緩反応を増強した。このことは、クエン酸シルデナフィル無効例に対し、PDE V抗体の陰茎内投与が有効である可能性を示す。
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