哺乳類の細胞において、組織特異的な分子発現は転写調節機構に依るが、最近、その調節にはゲノムDNAの化学修飾、すなわちエピジェネティクな変化が重要な役割を果たすことが明らかになってきている。また遺伝子のエピジェネティクな変化は、後天的な要因(環境)で容易に影響され得ることから考え、臨床医学的にもこの変化と生活習慣病や難治性疾患との関連などが近年大きく注目され始めている。本研究では、受精・初期発生における雌性生殖管内の機能分子の生体内の働きを追求する事を最終目的とするために、その前段階として、現時点で行われている配偶子・受精卵体外培養技術が、それらの細胞に与えるエピジェネティクな影響を特にCpGアイランドのメチル化を指標にして、卵管内の環境との比較検討を試みている。RLGS法によるCpGアイランドのメチル化、特に組織依存的にメチル化される領域(T-DMR)のマッピングは、C57B1/6マウスで詳細な検討がなされているため、本年度はまず、初期胚発生に関与するT-DMRのデータベースよりプライマー設定し、PCR法を用いて生殖細胞のゲノムの増幅をまず試みた。一匹のマウスより得られる卵・受精卵は過剰排卵処理を行わないと10-20個ほどしか取れないため、これら実験の確実な遂行のためにはアガロースビーズ法によるsingle cell PCR法の確立が必須になるが、今年度はこのsingle cell PCRの条件を検討した。この結果現時点では細胞約50個からのゲノムDNAで遺伝子を増幅する条件を確立した。現在約10個の細胞からのゲノムDNAを用いたDNA増幅が確実に行える条件を検討中である。次年度はこの条件を用いて各環境変化による配偶子・受精卵ゲノムメチル化に与える影響を引き続き検討する予定である。
|