研究課題
1)胎児期PCB曝露のリスク評価に有用なバイオマーカーの同定対象は、インフォームドコンセントの得られた正常妊娠経過母体52例で、その正常新生児の臍帯血について高感度ガスクロマトグラフ質量分析計を用いPCB濃度を測定した。測定値の上位5例を高濃度群、下位5例を低濃度群として抽出し、これら10例の臍帯血検体について蛋白量を測定後、等電点と分子量からなるアガロース2-DEを行った。蛋白染色したゲル上で、複数の症例に共通して高濃度群と低濃度群間に発現の違いが認められるスポットを選別し、トリプシンによるインゲル消化後、イオントラップ型LC-MS/MS装置にて蛋白の同定を行った。その結果、臍帯血PCB濃度(ng/g-wet)は、最低値16から最高値390までに分布していた。高濃度群で染色強度が明らかに高値を示したスポットは、計5個(分子量:60KD、40KD、40KD、35KD、35KD)存在した。逆に低濃度群の方が高値を示したスポットは計1個(分子量:35KD)であった。蛋白同定によって絞り込まれた候補蛋白の中には、α-fetoprotein、fibrinogen β-chain、apolipoprotein Eが含まれていた。2回目の蛋白同定では、β2-microglobulin、fibrinogen α-chain、fibrinogen γ-chainが候補蛋白として抽出された。以上より、アガロース2-DEとLC-MS/MS法を用いたプロテオーム解析によって、臍帯血中にPCB曝露と関連する蛋白が複数存在することを明らかにし、さらに蛋白同定することができた。2)ヒト双胎児間における分娩時臍帯中のorganochlorine暴露レベルと遺伝子発現パターン双胎児の臍帯を用いてorganochlorine類暴露レベルと遺伝子発現パターンを検討した。総PCBs, HCB, HCHsの暴露レベルは双胎児間で互いに近似していたが、DDTsについてはそうでなかった。これは胎盤や胎児因子がDDTsの運搬や蓄積に影響することを示している。双胎児間の遺伝子発現パターンは互いに近似していた。このことは、環境因子あるいは遺伝因子が双胎児双方で似ているからと推測される。今回の結果から、胎児のorganochlorine類に対する暴露を理解する上でいくつかの情報が得られた。さらに、臍帯の遺伝子発現パターンが子宮内環境に反映する可能性が示された。しかし、遺伝子発現の一般的パターンからの情報は限界があった。したがって、胎児のorganochlorine類に対する暴露の効果を評価するための新しいマーカーを、mRNAだけでなく蛋白レベルでも見つけるため、更なる探求が必要である。
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Reprod. Toxicol. (in press)