研究概要 |
今年度は、細胞性トロホブラスト(CT)から絨毛外トロホブラスト(EVT)への分化調節機構の検討において、特に周囲環境の酸素濃度に注目し、そのトロホブラストへの影響を血管新生因子産生について明らかにした。妊娠初期人工妊娠中絶患者から、患者のインフォームドコンセントのもと、胎盤組織を採取し、パーコール密度勾配法、および抗体ビーズ法により、高純度の未分化なCTのみを分離した。分離したCTを種々の酸素濃度のもと培養し、EVTに分化させた。 まず、培養上清中の血管新生因子(vascular endothelial growth factor(VEGF), placenta growth factor(PlGF), soluble Fms-like tyrosine kinase-1(sFlt-1))をELISA法で測定し、また、培養細胞をそのまま、あるいはパーミアライズして、上記物質に対する抗体で染色、直接観察、あるいはフローサイトメトリーによる解析を行なった。さらに培養細胞中のmRNAを抽出し、RT-PCRを実施し、上記物質の発現を転写レベルで解析した。すると、低酸素においてトロホブラストは一般の細胞と同様、血管新生促進因子であるVEGFの産生を増加させるが、他の細胞とは異なり、血管新生阻害物質であるsFlt-1の産生をより大きく増加させた。つまり、低酸素に陥ると血管新生が抑制され、ますます低酸素が進行するという悪循環に陥ることがわかった。このことは胎盤における低酸素が病態の中心である妊娠中毒症の成立に大きく関わっていると考えられた。
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