研究概要 |
(研究目的)我々はこれまで,従来から使用されてきた経口エストロゲンには脂質代謝改善作用がある反面,中性脂肪(TG)の増加がLDLを小粒子化したり,血管炎症に促進的に作用することを明らかにした。一方,エストロゲンの投与ルートを経口から経皮に変更することで,これらの悪影響を回避できることも報告してきた。本年度は,従来の結合型エストロゲン(CEE)0.625mg/日と低用量化した0.3125mg/日が脂質代謝動態とLDL粒子サイズならびにLDLの被酸化性に与える影響を比較し,動脈硬化に対する経口の低用量エストロゲンの効果を検討することである。 (方法)閉経後女性を対象とし,CEE 0.625mg/日と0.3125mg/日を3ヶ月間投与する群と薬剤を投与しないコントロール群の3群において,投与前後で脂質濃度,LDL粒子径およびLDLの被酸化性の指標であり脂質の酸化代謝産物であるTBARS濃度を測定した。 (結果)コントロール群では脂質濃度,LDLの粒子径と被酸化性は変化しなかった。CEE 0.625mg群ではLDLコレステロール(LDL-C)は低下し,HDLコレステロール(HDL-C)は増加したが,TGも上昇した。LDL粒子径は有意に減少し,TBARSは変化がなかった。CEE 0.3125mg群でも同様にLDL-Cは低下したが,HDL-CとTGには変化がなかった。LDL粒子径は小粒子化せず,TBARSは有意に低下した。 (結論)経口エストロゲンを低用量化することで,TGの上昇やLDLの小粒子化を認めず,被酸化性も減少させることができた。従って,経口エストロゲンの投与量を低用量化することで,エストロゲン自身の抗酸化作用が十分発揮できると考えられ,動脈硬化に抑制的に作用する可能性が示唆された。
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