RCAS1は婦人科癌に高頻度に発現し、末梢血リンパ球を含む受容体発現細胞にアポトーシスを誘導する。腫瘍悪性度亢進と相関するRCAS1発現による、(1)腫瘍細胞における悪性形質の修飾および、(2)腫瘍間質組織に対する質的変化誘導について解析し、RCAS1を標的とすることが婦人科癌に対する新たな治療戦略開発に繋がることを明らかにすることを本研究の目的とした。以下に本課題における研究成果を記載する。(1)担癌患者症例でのRCAS1発現と間質反応の質的変化に関する検討:(1)腫瘍細胞のRCAS1発現と原発巣・転移リンパ節におけるリンパ球のアポトーシス誘導との関連についてタネル法を含めた免疫組織染色により解析したところ、RCAS1発現に相関してリンパ球アポトーシスが誘導されていた。(2)担癌患者症例での腫瘍細胞RCAS1発現と線維芽細胞の形態、組織内分布の変化を抗RCAS1抗体、ビメンチンおよび種々の細胞膜分子、タンパク分解酵素に対する抗体を用いた免疫組織染色で解析したところ、RCAS1発現と相関して間質細胞のビメンチンの発現が減弱していた。腫瘍組織ではRCAS1発現とMMP-1およびLaminin-5の発現の間に正の相関が認められた。(2)子宮癌患者症例血清中のRCAS1についてELISA法を用いて測定したところ、頸癌、体癌共に健常者に比しRCAS1濃度は高値であったが、子宮頸癌では腺癌が扁平上皮癌に比し高値であった。さらに、血中RCAS1濃度の推移は臨床経過と相関しており、RCAS1が子宮癌のあらたなbiomarkerとなり得ることが示唆された。(3)RCAS1の膜型から分泌型への変換に関する検討:RCAS1は発現細胞のphorbol ester処理により分泌されるが、protease inhibitorを同時添加することで分泌が抑制されることから、RCAS1はectodomain sheddingにより分泌型抗原となることが示された。(4)RCAS1発現と悪性形質獲得に関する分子機構の解析:RCAS1遺伝子導入細胞を用い、in vitroコロニー形成能やヌードマウス移植後の造腫瘍能の変化について解析を行ったところ、RCAS1遺伝子導入細胞での造腫瘍性の亢進が認められた。その一方で、RCAS1に対する特異的siRNAを細胞導入することでヌードマウスでの造腫瘍性が抑制され、RCAS1がin vivoにおける造腫瘍性と関連があることが示唆された。以上の知見から、RCAS1が子宮癌治療における標的分子となり得ることが示唆された。
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