妊娠中毒症(現在は妊娠高血圧症候群)は高血圧を主体とする症候群で、高血圧と蛋白尿を発症するものは妊娠高血圧腎症(PE)と呼ばれ、胎児の発育遅延や胎児機能不全と母体の循環不全を発症し、生命に危機を及ぼす重篤な妊娠異常である。 近年、妊娠初期の胎盤形成不全による子宮胎盤血流減少が病因との仮説が提唱された。すなわち、正常妊娠では妊娠初期にトロホブラストが母体子宮らせん動脈に侵入し、その結果らせん動脈が導管化し、子宮胎盤血流を維持する。トロホブラストの侵入が抑制されると導管形成不全のため子宮胎盤血流が低下する結果、子宮胎盤や全身の血管においてendothelial cell activationと呼ばれる内皮機能異常が惹起され、血管抵抗の上昇、血管透過性の亢進ならびに血液凝固異常を発症するとの仮説である。 PE患者での内皮機能障害、特に内皮由来nitric oxide(NO)機能障害に着目し、その機能障害健全に向けて検討を行った。ニトログリセリン(NTG)慢性投与による内皮機能障害動物モデルを作製したところ、内皮由来NO産生の低下やNO・cGMP反応の減弱が認められた。この血管ではO_2^-産生の増加が認められた。アンギオテンシンII1型受容体(AT1R)阻害薬がO_2^-産生増加やNO-cGMP反応異常を正常化したことから、この動物の内皮機能障害はAT1Rを介したO_2^-産生増加関与していることが明らかとなった。Ex vivoの検討により活性葉酸+L-Arginine投与は血管内皮細胞でのNO産生障害を改善した。すなわち、この血管内皮機能障害には、内皮型NO合成酵素(eNOS)におけるO_2^-産生が増加する系(eNOS uncoupling)が関与していることが明らかとなった。ハイリスク妊婦(前回PEや高血圧・糖尿病合併)では、反応性充血法による内皮由来血管拡張反応(FMD)が、減少している。葉酸+L-Arginine投与が、FMD改善効果があるか、否か検討を進めている。
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