【目的】担癌個体では、アポトーシスの異常により、正常骨格筋細胞および脂肪細胞でアポトーシスが生じており、このことが担癌個体における体重減少の原因の一つであることが報告されている。今回の研究の目的は、正常筋細胞や脂肪細胞で見られた現象が他の正常臓器細胞、肝・腎・脾・肺・心で見られないかを調べ、この現象が癌悪液質時の多臓器不全の成因とならないかを調べるものである。【方法】体重約3kgの日本白色家兎20羽を健常群と担癌群の2群にわけ、一方は自由に食餌を摂取させ(健常群n=5)、他方には右大腿部にVX2腫瘍細胞1×10^6個を移植した(担癌群n=15)。実験開始20日目(n=4;担癌群3、健常群1)、30日目(n=4;担癌群3、健常群1)、40日目(n=4;担癌群3、健常群1)、50日目(n=4;担癌群3、健常群1)、60日目(n=4;担癌群3、健常群1)に屠殺し、肝臓、腎臓、脾臓、肺を摘出した。体重を10日毎に測定し、Lean Body Mass(LBM)もTOBEC法にて測定した。採取した組織をホルマリン固定後パラフィン包埋切片とし、TUNEL法、及びDNAラダー法によりアポトーシスを検出した。また、抗Bax抗体、抗Bcl-2抗体、抗Bcl-x_Lを用いてLSAB法にて免疫染色しアポトーシス関連蛋白の発現を検討した。【結果】LBMは担癌早期20日目に担癌群で19.1±1.02%の減少を認め、健常群にて1.66±0.83%の増加を認めた。Apoptotic Indexは、肝臓、腎臓、肺、脾臓それぞれにおいて担癌50日目に、14.2±1.75%、25.8±2.00%、66.7±6.00%、24.9±3.81%まで増加したが、健常群では、観察期間を通して低値のままだった。DNAラダー法は、肝臓、腎臓、肺、脾臓において担癌50日目にDNAの断片化を認めた。担癌群におけるBaxの発現はアポトーシスの出現と一致した。一方、Bcl-2とBcl-xLの発現はほぼ認められなかった。また心臓ではアポトーシスを認めず、Baxの発現も認めなかった。【結論】以上の結果から、担癌個体における、Baxの発現に関連した正常臓器でのアポトーシスは体重減少のみでなく、癌悪液質状態における多臓器不全の原因となっている可能性が示唆された。
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