ラット子宮での着床関連因子として同定されたスタスミンについて、着床と脱落膜化における役割を解析した。1)マウス子宮においてもスタスミン発現は脱落膜形成時に制御されていることを観察した。スタスミン欠損マウスの出産胎児数は野生型に比べ少なかったが、妊娠初期の着床数に影響はなく出産数の低下は着床過程の異常では説明できなかった。スタスミンファミリー構成因子SCG10は野生型及びスタスミン欠損マウスにおいて脱落膜形成時に発現が上昇しており、着床・脱落膜化への関与と正常な着床・脱落膜化におけるSCG10の代償的役割が推察され、SCG10欠損マウスを作成中であるが研究期間内で生殖能の解析まで至らなかった。2)ヒト子宮及び胎盤におけるスタスミンの役割について解析した。子宮内膜でのスタスミン蛋白質の局在は、腺上皮細胞と間質細胞に認められ、mRNA発現量は月経周期分泌期の脱落膜化の進行に伴い低下傾向にあった。妊娠7週の初期子宮の脱落膜での発現レベルは低く同時期の胎盤絨毛の栄養芽細胞と絨毛外栄養膜細胞にスタスミンの強い発現が検出された。卵巣ステロイドまたはcAMP誘導体(Bt_2cAMP)処置による培養ヒト内膜間質細胞の脱落膜化モデルを用いたところ、脱落膜化の進行と共に増加するIGFBP-1とプロラクチンの発現と分泌は、siRNAによりスタスミン発現を抑制した状態では阻害された。また、この発現抑制は子宮内膜間質細胞の増殖能の有意な低下をもたらした。以上、ヒト子宮内膜や胎盤に発現するスタスミンが子宮内膜間質細胞の増殖と脱落膜細胞への分化誘導に関与する可能性を示唆した。げっ歯類のみならずヒトにおいて子宮内膜間質細胞においてスタスミンが増殖性の細胞から脱落膜化に伴い分泌型の細胞に変化する際の分化の準備または開始に必要な細胞内調節因子であることを示し、妊娠の分子機構の一端を明らかにした。
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