研究概要 |
これまでの一連の研究によって以下のことが明らかになった。すなわち冠循環は,その重要さゆえに心筋虚血などの代謝異常運動,外的ストレス,に対して迅速に対応できる循環制御メカニズムが備わっている.循環系の調節因子はきわめて複雑であるが,神経,心臓,内皮細胞および血球成分はそれぞれから遊出されるケミカルメディエーターにより冠微小循環を個別に調節することが知られている.心臓はエネルギー消費の最も大きい臓器で,容易に虚血に陥る.虚血-再灌流障害による代謝変動と,これにかかわるフリーラジカルが生体内の生理病理現象に広く関わっている.ATPの分解産物であるアデノシンは神経,心筋,内皮細胞および白血球成分のいずれからも産生され,かつどの細胞にも受容体が存在するため冠微小循環調節の各因子のモジュレーターとして冠循環を調節している.アデノシンは虚血や低酸素下で心筋から大量に産生され,冠血流量増大,心筋代謝改善,不整脈に作用している。これかの効果はアデノシン活性の高い子宮内胎児環境でエンハンスされている。 これらの知見をもとに重症妊娠悪阻症例(n=34)に関して、アデノシンサンプルを採取し、検討した結果、アデノシンはサイトカインの産生機構にも関与し、特にTNF-alpha産生とも密接に関係し、母体のみならず、胎児脳、胎児冠循微小循環障害に対して、TNF-alpha産生などのサイトカインの動因とも密接な関連を持ち、Th1/Th2バランスを制御している可能性がある。またこの胎児胎盤ユニットにおける代謝制御機構を母体代謝の側面から観測すると、特に双胎妊娠サード・トリメスターにおける母体側のエネルギー代謝制御において寄与していると考えられた。
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