研究概要 |
アルツハイマー病における嗅覚障害のメカニズムを検討するため、モデルマウスを用い嗅上皮と嗅球における変化を観察した。 1.生後8,16,26ヶ月のアルツハイマー病モデルマウス(早期より神経原線維変化を呈するトランスジェニックマウスであり大脳皮質におけるタウ蛋白の発現が確認されている)の嗅上皮と嗅球におけるタウ蛋白の発現について、抗リン酸化タウ蛋白抗体(PS199)を用いた免疫染色を行った。それによると既に生後8ヶ月の時点でリン酸化タウ蛋白の発現を認めた。発現は嗅上皮においては嗅細胞層の上方に、嗅球においては僧帽細胞体層に多い傾向があった。なおコントロールマウスでは発現を認めなかった。 2.HE染色による検討では、モデルマウスではコントロールと比較し嗅上皮における嗅細胞の個数が部分的に減少しており、嗅神経線維東内の軸索の本数も少なかった。 3.細胞増殖マーカーであるブロモデオキシウリジン(BrdU)を用いた細胞動態の検討ではコントロールマウスではBrdUは嗅細胞層の下層に多く発現していたのに対し、モデルマウスではその発現が有意に少なかった。すなわちモデルマウスでは嗅細胞の再生能が低下していることが示唆された。 アルツハイマーモデルマウスの嗅上皮と嗅球にはタウ蛋白が発現しており、また嗅細胞のアポトーシスから再生に至る細胞動態にも変化を来していることが確認された。このことはこのモデルマウスが生理学的にも嗅覚障害を来している事を示唆しており、今後アルツハイマー病における嗅覚障害の解明に有用であることが予想された。
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