研究課題
基盤研究(C)
本研究は、成熟後の哺乳類で不可能とされている聴覚機能再生の実現を目指して、国内外で我が研究チームが主導を握っている「細胞移植による内耳再生研究」を進展させた。具体的には、in vitroおよびin vivo系の細胞移植実験において、主に神経栄養因子BDNF(brain-derived neurotrophic factor)の遺伝子導入や薬剤投与を行い、神経方向に誘導された胚性幹細胞(ES細胞)と、既存の有毛細胞との、接合に及ぼす影響について、検討した。In vitro器官培養系では、有毛細胞を傷害せずに蝸牛神経を切り離し、神経誘導ES細胞と、接触を伴うインサート法で数日間共培養した。得られた標本を、Caイメージングによる電気生理学的評価および電顕観察にて解析した結果、蝸牛有毛細胞内Caイオンの変化、並びにシナプス形成が確認された。パパイン処理を施した前庭有毛細胞で同様の実験を行った結果、接合部位のsynaptophysin免疫染色により、シナプス形成が確認された。In vivo細胞移植実験は二通り行った。まず、遺伝子導入実験の第一段階として、BDNFをNIH3T3細胞に恒常的に発現させた。この細胞を、モルモットの内耳内に局所投与した結果、BDNFは蝸牛神経細胞の維持に有効な因子であることが確認された。また、カナマイシン+エタクリン酸併用投与により難聴(二次的な蝸牛神経細胞死)を起こしたモルモットの内耳蝸牛軸に、神経誘導ES細胞を移植し、EABRにて機能評価を行った。結果、移植した神経誘導ES細胞の中枢へのシナプス伸張が認められ、EABRの改善が確認された。本研究は、聴覚機能再生への序章にすぎないが、研究の方向性を定める礎になると思われる。
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Mol. Ther. (In press)
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