組織レベルでの亜鉛欠乏の機能的評価法として、亜鉛要求性酵素であるアンギオテンシン変換酵素(ACE)を用いたACE活性比を開発した。すなわち、ACEは活性中心に亜鉛を必要とする酵素であり、血中には亜鉛と結合した活性の高いholl-ACEと、亜鉛と結合していない活性の低いapo-ACEの2種類が存在している。最初に血液のACE酵素活性を測定すると、holl-ACEの活性を測定することになる。次に、in vitroで血液に十分量の無機亜鉛を添加してからACE酵素活性を測定すると、apo-ACEにも亜鉛が結合してholl-ACEとなり、より高い酵素活性が測定される。亜鉛添加後の酵素活性から亜鉛添加前の酵素活性を引くと、はじめに存在していたapo-ACEの活性を知ることができる。holl-ACEに対するapo-ACEの比がACE活性比である。ACE活性比が高いほど、亜鉛が欠乏していると考えられ、亜鉛栄養状態の評価に用いることができる。 次に、味覚障害患者の組織レベルでの亜鉛欠乏状態を、ACE活性比を用いて評価した。ACE活性比は、「いわゆる亜鉛欠乏性味覚障害」患者のみならず、「いわゆる特発性味覚障害」患者もACE活性比の異常高値を示した。この結果から、血清亜鉛値で評価した特発性味覚障害患者も、亜鉛欠乏が原因の味覚障害であることが明らかになった。 そこで、「いわゆる亜鉛欠乏性味覚障害」患者と「いわゆる特発性味覚障害」患者を特発性亜鉛欠乏性味覚障害患者とし、年齢をマッチさせた健常成人に対して、管理栄養士による食物摂取頻度調査を行い、特発性亜鉛欠乏性味覚障害患者の亜鉛の摂取量の調査を行った。その結果、特発性亜鉛欠乏性味覚障害患者の亜鉛の摂取量は健常成人との間に差を認めず、亜鉛摂取不足による亜鉛欠乏である可能性は否定的であった。以上の結果から、特発性亜鉛欠乏性味覚障害患者では、摂取した何らかの栄養素が亜鉛の吸収を阻害している可能性が考えられた。
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