高齢化社会に伴い難聴に対する社会的関心が高まっているが、今なお感音性難聴に対する確実な治療法は開発されておらず、現存する治療手段にも限界がある。ヒトの聴覚の感覚細胞であるは一旦障害されて消失した場合、鳥類のような自己再生能力は持たない。もし神経幹細胞移植により、虚血後に脱落・消失した有毛細胞の再生が可能となれば、内耳虚血が関与する高度感音性難聴疾患全ての治療が可能になる。 平成16年度は、1)スナネズミ胎児の海馬・線条体より神経幹細胞を採取して培養し、虚血後に成熟スナネズミの内耳への注入を行った。2)神経幹細胞の内耳注入により、虚血障害後の聴力障害が回復するか否かの生理的検討を行った。以上の研究より、虚血性内耳障害に対する再生医療の開発を進めた。 結果であるが、妊娠スナネズミの胎児より脳を取り出し、海馬と線条体の部分を採取後、神経幹細胞の分離・培養を行った。培養された神経幹細胞は、顕微鏡下で観察しシャーレ上でcolonyを作っているものを選び出し、subcultureした結果、良好な神経幹細胞の培養が行えた。また培養された神経幹細胞は、虚血1日後に先端約400μm径の微細ガラス管をマニュウプレーター用いて蝸牛に注入された。聴力閾値の測定には、聴覚脳幹反応(Auditory Brainstem response:以下ABR)を用いて測定を行った。実験動物の聴覚域値を求めた結果、虚血-神経幹細胞注入側では、コントロールの虚血-生理食塩水注入側と比較し、虚血障害によるABR閾値の上昇が有意に抑制されていた。 以上のことより、スナネズミ胎児の海馬・線条体より採取・培養された神経幹細胞は、虚血1日後に蝸牛内に注入することにより、虚血による聴力障害を抑制することが確認された。
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