高齢化社会に伴い難聴に対する社会的関心が高まってきているが、今なお感音難聴に対する確実な治療法は確立しておらず、現存する治療手段にも限界がある。これまでの報告によると感音難聴の多くは背景に内耳虚血が存在すると推察される。我々は現在までに一過性内耳虚血モデルを確立し、虚血後にコルチ器の内有毛細胞において進行性の脱落障害が生じ、その病態にアポトーシスが強く関連していることを明らかにしてきた。ヒトの有毛細胞は一旦障害されて消失した場合、鳥類のような自己再生能力は持たない。もし神経幹細胞移植により、虚血後に脱落・消失した有毛細胞の再生が可能となれば、内耳虚血が関与する高度感性難聴疾患すべての治療が可能になる。 今年度の研究として、昨年我々が行ったスナネズミ胎児の海馬・線条体より採取・培養した神経幹細胞を、我々がすでに確立したスナネズミ一過性虚血モデルを用いて、レシピエントサイドの内耳に虚血後注入を行い、虚血障害後の聴力障害が回復するか否かを生理的・組織的な検討を行った。その結果、神経幹細胞の注入側では、コントロールである無処置側と比較して、聴力閾値の上昇が抑制され、また虚血7日後における内有毛細胞の進行性脱落が有意に抑制されることが判明した。 以上のことより、神経幹細胞は虚血性内耳障害を抑制する作用を有することから、将来の新しい治療の一つとして、内耳虚血が関与する高度感性難聴疾患に対する神経幹細胞を用いた再生医学治療の可能性が示唆された。
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