はじめに メニエール病の病理組織学的特徴が内リンパ水腫であることは良く知られているが、内リンパ水腫形成時に内耳のイオン環境がいかに変化するかについては、未だ十分な基礎データは蓄積されていない。メニエール病の発作発生のメカニズムに関しては、外リンパ腔の高カリウム化や、内外リンパ腔の圧差によって起こる仮説が立てられている。メニエール病の発作が、イオン環境の破綻によって誘発されるか否かについて解明するために実験を行った。 実験方法 モルモットを全身麻酔下に、中耳骨胞を開放し蝸牛を露出する。蝸牛第2回転中央階側壁に小孔を作成し、鼓牛静止電位をモニターしながら人工内リンパ液をマイクロポンプにて注入した。急性内リンパ水腫を作成し、このときの外リンパ腔(鼓室階第3回転)カリウムイオン濃度を電気生理学的に測定した。 結果と考察 人工内リンパ注入量により、鼓室階カリウムイオン濃度は上昇し、人工内リンパ液注入を停止するとカリウムイオン濃度は前値に回復傾向を認めた。しかし、4μlまでは鼓室階のカリウムイオン濃度は大きな変化を認めなかったが、5μlの注入では著名な増加を認めた。この鼓室階のカリウムイオン濃度の変化は、平成16年度に得られた前庭階のカリウムイオン濃度の変化と似ている。しかし、カリウムイオン濃度の増加量は、前庭階においてより大きかった。今回の結果は、外リンパ腔の高カリウムイオン濃度化が内リンパ水腫の程度に依存していることを表している。また、メニエール病のめまい・難聴発作の重症度と内リンパ水腫の程度との間に関連があることを示唆している。
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