研究概要 |
はじめに メニエール病の病理組織学的特長は内リンパ水腫であることはよく知られている。しかし、メニエール病の発作が発生する機序は未だ解明されていない。発作の機序に関しては、内耳圧の上昇、膜迷路破裂、外リンパ腔の高カリウムイオン(K^+)化が考えられている。本研究は、反復性の発作を説明するには外リンパ腔の高K^+化が最も適していると考え、実験的内リンパ水腫動物を作成し、内リンパ水腫形成期の外リンパ腔K^+濃度を測定した。 方法 有色モルモット22匹を使用し、急性内リンパ水腫動物を作成し、同時に前庭階もしくは鼓室階K^+濃度を計測した。手術は全身麻酔下に腹側から中耳骨胞を開放し蝸牛を露出させた。急性内リンパ水腫作成には、蝸牛第二回転から蝸牛内静止電位(EP)をモニターしながら、内リンパ腔内に人工内リンパ液を電動ポンプで注入した。人工内リンパ液注入量は、0.1から5μlとし、注入時間はいずれも10分間とした。前庭階もしくは鼓室階K^+濃度は、第3回転からダブルバレルK^+電極を使用し測定した。 結果 人工内リンパ液注入によりEPは増大し、前庭階K^+濃度も増加した。人工内リンパ液注入が終了するとEPも前庭階K^+濃度も注入前値へ回復傾向を示した。前庭階と同様、人工内リンパ液注入によりEPは増大し、鼓室階K^+濃度も増加し、人工内リンパ液注入が終了するとEPもK^+濃度も注入前値へ回復傾向を示した。人工内リンパ液の注入量が3μlまでは、前庭階K^+濃度の変化量は数mMであった。5μl注入では、前庭階K^+濃度は約25mM、鼓室階ではやく7mM増加した。 考察 今回の結果から、急速に内リンパ腔容積の増大をきたした場合、前庭階および鼓室階のK^+濃度は上昇することがわかった。今回の研究では、5μlの人工内リンパ液を蝸牛管に注入した場合に有意なK^+濃度の上昇を認めた。内リンパ腔容積が2μlであることを考えると、5μlの注入は多すぎるように思える。しかし、Rask-Andersenら(1)が報告しているように、内リンパ嚢が内リンパ腔容積のリザーバー的役割を行っていること、以前我々が報告した(2)、2μlの人工内リンパ液を蝸牛管に注入した実験でも、軽度の内リンパ水腫しか見られなかったことからも、5μlの注入はメニエール病の病態から大きく逸脱しているとはいとはいえない。したがって,今回の研究は、メニエール病の発作が外リンパ腔の高カリウムかによるという仮説を支持する結果と考える。
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