<はじめに>嚥下音の発生音源は、嚥下反射時の喉頭の上下運動に伴う頸椎前面と輪状軟骨との嚥下物を介した摩擦がその主体である可能性が高いと言われてきた。 <目的>今回、嚥下音から嚥下動態をどの程度推定できるかを検証するため、嚥下音とともに、舌骨上筋群表面筋電図、頸部外観から推定する喉頭の挙上運動、喉頭の内視鏡像、嚥下圧などを適宜組合せ同時記録し、嚥下音の発生源と発生機序を確認するとともに、嚥下音から嚥下動態をどの程度推定可能かを検証することを目的とした。 <実験1>多元的な計測を行うに先立ち、被験者に対して侵襲や負担の少ないものの組合せから、どの程度嚥下音の記録が安定した状態で行えるかを確認した。 まず、空嚥下、水一口嚥下、水3回分割嚥下、水3回連続嚥下、プリン一口嚥下などを行った際の嚥下音を、舌骨下筋群表面筋電図および頸部側面外観のビデオ画像と同時に記録し解析した。 対象は口腔・咽喉頭・食道疾患や嚥下障害・嚥下困難などの既往・訴えのない正常成人男性3名、女性5名である。嚥下音は側頭部に貼付した心音マイクで、舌骨下筋表面筋電図は顎下部に貼付した表面電極で頸部側面のビデオ画像とともにシンクロキャプチャーシステムSC-1のハードディスク上に記録し、オフラインで分析した。 <実験2>上記の対象者の一人で3チャンネル圧トランスデューサを経鼻的に咽頭・頭部食道まで、咽喉頭電子スコープを挿入し、経鼻的に咽頭まで挿入し、嚥下音は側頭部に貼付した心音マイクで、舌骨上筋群表面筋電図は顎下部に貼付した表面電極でビデオ画像とともにシンクロキャプチャーシステムSC-1のハードディスク上に記録し、オフラインで分析した。 <結果>表面筋電図から舌骨上筋群の活動増加を嚥下反射惹起の基準として、嚥下音の発生までの時間は約0.4〜0.5秒、喉頭の最大挙上までの時間は0.5〜0.8秒であった。嚥下物の量を多くしたり、また、液体以外のものを用いると、食塊の口腔内保持のために舌骨上筋群の活動が増加し、嚥下反射惹起を見極めるのが困難になることがある。また、分割嚥下の場合には、2度目以降の嚥下音が初回の嚥下音に比較して不明瞭になり、分析が困難になることがあった。実験2においての結果は、まだ被験者が少ないため断定はできないものの、圧トランスデューサや咽喉頭電子スコープは嚥下音発生に特に影響を及ぼすことはないことが示唆された。 <考察>臨床応用可能な嚥下音採取のためには、被験者に負担が少なく、かつ再現性の得やすい方法が必要である。
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