垂直半規管が興奮した場合、右・前ならびに後半規管からは時計回りのOTR(Ocular Tilt Reaction)と頭位傾斜が誘発され、左・前ならびに後半規管からは反時計回りのOTRと頭位傾斜が誘発された。さらに、垂直半規管(ことに後半規管)の興奮性反応がSVV(Subjective Visual Vertical)の偏倚を起こし、vectionを惹起した。SVVならびにvectionの誘発には強い前庭刺激条件(加速度:100°/s以上)が必要であった。後半規管が興奮性反応を呈すると、興奮耳側と反対側へ偏倚するSVVが認められ、また興奮耳側へ向くroll vectionが認められた。SVVの偏倚方向とOTRや頭位傾斜の方向は一致する傾向にあったが、vectionの方向とは逆であった。後半規管の興奮性反応により惹起されたSVVの偏倚は眼球が冠状面(roll plane)で患側耳と逆方向へ偏倚した結果誘発されたものと考えられ、roll vectionはSVVに対する代償反応(visuospinal postural compensation)と考えられた。vectionの発現に垂直半規管が深く関係していることが確認された。また、vectionが惹起されると、vectionの方向と反対側に向かう身体移動がみられた。以上より、末梢・前庭眼運動系はSVV/vectionに深く関わり、末梢・前庭眼運動系が空間識に関係することが示唆された。さらに、末梢・前庭眼運動系は姿勢保持にも関係することが考えられた。 半規管が興奮ならびに抑制性反応を呈した際の脳内神経活動を検討した。脳内神経活動の測定には光トポグラフィー(近赤外線脳血流量測定装置)を用い、ヘモグロビン量を指標とした脳血流量の変化で検討した。同時に、この際に生じる「めまい感」を検討した。垂直半規管が興奮すると、同側の頭頂側頭部の皮質血流量が顕著に増加を示し、垂直半規管の抑制時には減少する傾向にあった。めまい感は皮質血流量の左右差が大きいほど強い傾向にあった。以上より、垂直半規管が皮質レベルでめまい感の発現に関係する可能性が示唆された。
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