1)眼球運動の分析 航空機内で実施した、パラボラフライト中のコリオリ刺激実験の眼球運動記録を、専用の分析ソフトを用いて解析した。大学院生が山口大学医学部の池田助手の開発した分析ソフトの使用方法を習得し、専用のパソコンにデータを取り込み、解析に当たった。眼球運動はCCDビデオカメラで記録されているが、撮影条件が必ずしも良好ではない。鮮明に撮影された被験者の記録では、μGの刺激直後の眼球最大緩徐相速度は、1Gの理論値に極めて近い結果が得られつつある。遮眼の前庭刺激誘発眼球運動は、基本的に、1GとμGで違わないことが示唆される。 2)身体移動記録の分析 懸垂式回転移動装置を用いて、被験者の前胸部に貼付した小型直線化速度計で、コリオリ刺激(回転中の頭部前屈)時の左右身体移動を記録している。直線化速度計のため、正確な体幹に位置移動に変換するのは理論的に不可能である。しかし、模擬的なシミュレーションの位置移動変換の結果から、μGと1Gでまったく異なる身体移動が記録されている。眼球と異なり、身体はμG条件で前庭刺激しても、1Gのような前庭反射は誘発されないと予想される。 3)外界知覚と身体制御の理論構築 実験結果に基づいて、外界知覚内容が眼球、姿勢、感覚に忠実に反映される、つまり外界から身体への画一的座標変換で制御される、という仮説を提唱してきた。これらの実験事実、仮説を、最新のNeuroscienceの報告に照らし、解釈を試みた。前庭神経核2次ニューロンで、すでに外界空間を再現する情報が再現されている可能性、小脳中部室頂核で頭部中心の視覚前庭情報が体幹中心の情報に変換されている可能性、室頂核で歩行を空間的に制御している可能性などが報告されている。これらの内容は我々の仮説を強く支持している。
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