平成16年度には、記録テープからパソコンにより眼球運動を解析し、身体の直線加速度記録から身体移動距離を求めた。これらから、コリオリ刺激時(100度/秒右回転中の頭部前屈)の眼球運動と身体移動距離を1GとμGで比較し、以下の定量的結果を得た。 1)眼球運動の分析結果 1GとμGにおける刺激直後の眼球最大緩徐相速度の平均は、それぞれ回旋成分が26.7度/秒、28.6度/秒、水平成分が23.6度/秒、22.3度/秒、垂直成分が10.2度/秒、12.1度/秒であった。これらより、回転軸上での眼球最大緩徐相速度は1Gで35.6度/秒、μGで36.3度/秒となる。前庭眼反射は1GとμGでほぼ等しいことが判明した。 2)身体移動記録の分析結果 刺激開始から1秒間の身体移動距離を、直線加速度記録から求めた。1Gでは刺激開始直後、上体は慣性力方向の右方にわずかに移動後、大きく慣性入力方向の左方に移動した。1秒間の移動距離は平均約10cmであった。同一刺激に対し、μGでは終始、上体は慣性力方向の右方にのみ移動し、平均約4cmの移動であった。これより、1Gでは初め慣性力がわずかに作用するが、身体移動には慣性入力の影響が大きいといえる。一方、μGでは慣性入力は身体移動には作用せず、慣性力のみが作用すると結論された。 3)外界知覚と眼球運動、姿勢制御の関わり 今回の結果はきわめてクリアカットで、かつ定量的な値で示されたことに価値がある。重力を欠く環境で前庭刺激を加えると、前庭眼反射は1Gと動揺に誘発されるが、前庭脊髄反射である姿勢変化は起こらない。1Gでは重力軸が外界空間のZ座標として機能し、この基準を介して姿勢反応や移動感覚が誘発されることが判明した。眼球は外界基準が消失しても、頭部を基準として前庭反応が誘発されることも判明した。この成果は現在、Experimental Brain Researchに投稿中である。
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