記録の解析対象は、1Gとパラボラフライト中のμGでコリオリ刺激を与えた際の、遮眼における姿勢変化と眼球運動の記録である。姿勢変化は前胸部に貼付した直線加速度計で記録され、移動距離を求めた。眼球運動はCCDカメラで記録され、画像解析ソフトにより水平、垂直、回旋成分の運動を求めた。以下の結論が得られた。 1)回転中の頭部前屈で、1Gでは慣性入力方向優位の直線加速度が記録され、回転速度の増加に伴い増大した。μGでは慣性力方向で始まる振子様波形の加速度が記録された。100度/秒回転中の頭部傾斜開始1秒間の移動距離は、1Gでは慣性入力方向に約10cm、μGでは慣性力方向に約4cmであった。1Gでは上体が慣性入力に、μGでは慣性力に従った結果と言える。 2)眼球運動は1GとμGを問わず、慣性入力に一致した記録が得られた。頭部傾斜直後の眼振最大緩徐相速度は、水平、垂直、回旋のいずれでも明らかな違いを示さなかった。 3)1Gでは重力をZ軸とする外界座標が慣性入力の基準となるが、μGではこの基準が消失するため、慣性入力の移動量が出力されない。このため、μGでは移動感覚も希薄で、慣性入力に対する姿勢反応も消失する。μGで外界基準が消失しても、頭部基準に対する慣性入力は機能するので、1Gに類似した眼振が誘発される。 今回の分析結果から、前庭器からの慣性入力は、前庭神経核に再現される外界座標を基準に、空間的な移動情報を生むと推測される。この座標情報が大脳皮質で移動感覚を生み、前庭小脳路を介する座標変換により、小脳で画一的に姿勢を変化させると考えられる。
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