研究概要 |
角膜内皮の機能は,ポンプ機能により角膜実質の含水率を一定に保って角膜の透明性を維持することであり,ポンプ機能は主に内皮細胞のNa-K ATPaseに依存している。本研究では,マウスの培養角膜内皮細胞を用いて,Na-K ATPaseを制御する薬剤,因子について検討した。 実験には,マウス角膜内皮細胞由来のcell lineであるC3H細胞を用いた。C3H細胞の培養液中に,デキサメサゾン,インスリン,インスリン様成長因子(IGF-1),神経ペプチドであるsubstance P, CGRP, VIPを種々の濃度で添加した。Na-K ATPaseの活性測定は,培養液中にATPを加えて,ATPaseにより生成される無機リン酸量をリンモリブデン反応による呈色反応を用いることで行い,Na-K ATPaseの特異的阻害剤であるウアバインを添加した場合と添加しない場合の差を求めてNa-K ATPase活性とした。 Na-K ATPase活性は,デキサメサゾン,インスリン,IGF-1,substance Pの添加により濃度依存的に上昇し,IGF-1とsubstance Pでは相加作用がみられ,最大で2.5倍の活性の増加がみられた。Na-K ATPaseの活性亢進の機序として,Na-K ATPaseの発現量の増加,細胞内局在の変化,α-subunitの脱リン酸化などが考えられ,Western blotや共焦点顕微鏡を用いた蛍光抗体染色などの検討を行っている。 角膜内皮のNa-K ATPase活性が神経伝達物質の1つであるsubstance Pにより亢進することが明らかとなった。臨床例で角膜に冷却負荷をかけて角膜浮腫を誘発する試験(アイステスト)を行うと,角膜浮腫の程度は角膜内皮細胞密度よりも角膜知覚と相関したことからも,角膜内皮のNa-K ATPase活性は何らかの神経性因子の制御を受けていることが示唆された。
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