研究概要 |
平成16年度、ケロイド由来線維芽細胞(以下、KF)の遺伝子解析を行った結果、遅延型アレルギー反応に関与するマクロファージ遊走阻止因子(macrophage migration inhibitory factor, MIF)が強く発現しており、炎症や創傷部位に見られるリゾフォスファチジン酸(lysophosphatidic acid, LPA)の受容体の発現も確認した。MIFとLPAは,ケロイドにおける相互作用に関する報告はまだなかったため、さらに調べたところ、KFは正常皮膚の線維芽細胞と比較し,LPA刺激により強い走化性の亢進を示した.また,LPA刺激の濃度依存性にMIF mRNAおよびMIF蛋白の発現の増強が見られた.RT-PCRによる解析において,KFは正常皮膚の線維芽細胞とは異なったLPA受容体サブタイプの発現パターンを示すことがわかった.以上のことから、MIFとLPAは,RNA抑制遺伝子を用いたケロイド治療の新戦略の鍵となると強く推測された。そこで、本研究では,次年度初めより、KFの遊走性におけるMIFの関与および,LPA刺激によるシグナル伝達系におけるLPAとMIFの機能および相互作用についての内容に研究の軸を移した。本研究の平成17年度の目的の一つ、RNA抑制遺伝子導入に関しては、MIFの遺伝子の発現抑制に関して計画を遂行できた。MIFsiRNAを用いて、KFの単独培養系でRNA抑制遺伝子導入行い、細胞内MIFの合成を抑制すると,LPA刺激によっても線維芽細胞の走化性は顕著に抑制され,細胞運動を制御する蛋白であるRhoの活性化も抑制されるという重要な結果を得るに至った。以上の結果からケロイドではMIFは主として細胞質のMIFが作用し,LPAとの相互作用を持ちながら細胞の運動性の亢進に密接に関与していると考えられた.
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