本研究の目的は今まで使用してきた人工皮膚材料にさらに組織工学的手法を用いて改良を加えヒト皮膚モデルとし、これに対して創傷を作製して実際の皮膚における創傷治癒過程をシミュレーションして解明することである。 平成16年度はヒト皮膚モデルに各種創傷治癒因子を付加した際の創傷治癒反応の変化を明らかにするための基礎実験を行った。具体的には作製の際に組織工学的手法を用いて標本の厚みを変化させ、それに伴う創傷治癒の変化についての病理組織学的検索を行った。標本内にメラノサイトやマクロファージを組み込んでの研究はアメリカ合衆国でのBSE発生に伴い、購入する予定であった凍結細胞の培養液中にBSE危険部位であるウジ下垂体抽出液を含んでいることにより輸入が禁止されたことにより断念した。 平成17年度はヒト皮膚モデルに各種創傷治癒因子を付加した際の創傷治癒反応の変化を明らかにした。培養液中にbFGFやVEGFなどのサイトカイン類を付加する研究については、基礎的な実験としてそれらのサイトカイン類を含むプラセンタ溶液を線維芽細胞、表皮角化細胞の培養液中に添加してその至適培養条件を検索した。さらに人工皮膚標本の創傷作成後の培養期間中に培養液内に各種濃度のプラセンタ溶液を付加してその創傷治癒に及ぼす影響を調べた。 人工皮膚標本の表皮層についてはプラセンタを培養液中に0.1%添加した場合にもっとも創傷治癒が促進され、それ以上でも以下でも創傷治癒は遷延した。真皮層では濃度に依存して創傷治癒が促進された。 以上より当研究で使用している人工皮膚標本は実際の皮膚の創傷治癒をある程度シミュレーションすることが可能であることが推察された。
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